« 2013年4月 | トップページ | 2013年6月 »

2013年5月

2013年5月26日 (日)

【コラム】なぜボードゲーム初心者は憧れの重量級ゲームを買うべきか?

ボードゲームを買うようになってから、もう半年以上が経った。まだ初めてボードゲームを触った頃の気持ちが残っているうちに、書き残しておこうと思っていることが1つあるので、そのことを書く。

ボードゲームの話では全然ないのだが、昔ネットだかテレビだかで、ショパンの「幻想即興曲」を独学で学んだというおじさんが出ていた。曖昧な記憶だが、そのおじさんはこれまでほとんどピアノを正式に学んだことはない。しかし、ショパンの「幻想即興曲」に憧れて、ピアノを独学で学び、その曲を弾きこなすまでになった。

僕はそのおじさんを見て、強い共感を覚えた。その演奏は決して上手いものではない。とても素人くさい。でもそのおじさんの成したことは、ピアノなど全く素人の僕にも強烈な印象を与えた。

はっきり言って彼は無謀だと思う。きっと「よく分かっている人たち」は、そんな無謀な彼を目の前にしたら、とても正しいアドバイスをするだろう。基礎を教えてくれる音楽教室に通うべきだとか、もっと簡単な曲からマスターするべきだとか。その方がずっと近道なんだと。

そういうアドバイスはきっと正しい。しかしだ、おそらくそのおじさんを突き動かしていたのは、「幻想即興曲」に対する圧倒的なロマンだったろう。ショパンの「幻想即興曲」には、きっと効率とかいう真っ当な価値観を忘れさせる何かがあった。「エリーゼのために」にはない圧倒的な魅力があったはずなのだ。

ボードゲームを好きになって、ネットでいろんな情報を集めるようになり、そこで「初心者に難しいゲーム」という言葉を見つけると、いつもそのおじさんのことを思い出す。

「初心者に難しいゲーム」という言葉。これ、多分、正しい。初心者には厳しいというのは、きっとその通りなのだろう。

でも、僕と同じように、初心者の中には、きっと憧れの重量級ゲーム、重ゲーを心に抱いている人が少なからずいるのではないかと思うのだ。「1ゲーム3時間かかります!」とかにロマンを感じちゃったりしている初心者がきっといっぱいいると思う。

で、最近よく思うのは、他人の言葉なんか気にせず、買っちゃえよってことだ。「上級者向け」?気にするな。難しくてよく分からなかった?けっこうけっこう。きっと、その行為は、次に繋がる「かけがいのない経験」になる。

ベテランの人たちだって、何も意地悪をして「初心者に向かない」なんて言っているわけではない。ある程度の手順を踏んで、100%の状態でその名作を楽しんでほしいからこそ、そう語るのだ。

しかしだ。大切なのは、そうしたロマンを持ち続けることだ。そういう訳の分からない思いに突き動かされてこそ、自分にとっての「特別なボードゲーム」は手に入るのではないか。そして、その期待と失望と歓喜のサイクルは、どれだけベテランになっても、もしかして、変わらないんじゃないか。

だから、色んなレビューサイトを見て不安になるよりも、一発どかーんと買っちまえばいいと思う。そのゲームに憧れてしまうくらいなんだから。

少なくとも半年間いろいろなボードゲームサイトを見たり、ボードゲームを買ったりして分かった。どうやら、ボードゲームに憧れやロマンを抱いてしまうしょうもない人間は、「初心者」という言葉の中に含まれていないようなのだ。

だから「まだボードゲームに慣れてないからな」なんて言って、重ゲーを買うのにためらう必要は全くない。

これは想像だが、どんなベテランプレイヤーも、そうした「思い切った跳躍」をかつて1度、経験したことがあるのではないだろうか。「難しいかな、どうなんだろうな」と迷うところをジャンプした先に広がる世界が、きっとあると思う。

2013年5月19日 (日)

【ボードゲームレビュー】スティッヒルン/ハットトリック ★★★☆

Sticheln_01

評価:★★★☆[3/4](4人プレイでの評価です)

プレイ人数:3~8人

プレイ時間:30分ぐらい


トリックテイキングの洗礼。

簡単なゲームの流れ(スティッヒルン)

  • ①各プレイヤーは15枚のカードを手札に持つ。カードは5色あり、数字は各色0~11である。(4人プレイの場合)
  • ②最初に、手札から1枚のマイナスカラ―を選択して場に出す。このカードと同じ色はそのプレイヤーにとって失点となる。
  • ③トリックテイキング開始。最初に出した人の色(=リードの色)と異なる色を出すと、数字に関係なくそのカードの方が強いカードとなる。リード以外の色同士では、数字の高いカードの方が強い。全員が1枚ずつカードを出したところで、一番強いカードを出した人が、出されたカード全てを獲得する。
  • ④獲得したカード枚数分が点数となる。マイナスカラ―のカードはその数字分失点となる。
  • ⑤何ラウンドかして、最も点数の高い人が勝ち。

簡単なゲームの流れ(ハットトリック)

  • ①各プレイヤーは15枚のカードを手札に持つ。カードは3色あり、数字は各色0~21である。(4人プレイの場合)
  • ②トリックテイキング開始。場には2色までしかカードを出すことができない。つまり、2色のカードが出た段階で、それ以降のプレイヤーはどちらかの色と同じカードを出さなければならない。ただし、パスもできる。
  • ③場に2色のカードがあれば、各色で最も数字が大きい人がその色のカードを取る。つまり、1回のターンでカード獲得できるの人が2人いる変則的なトリックテイキング。
  • ④一番多く集めた色の枚数が点数になる。2番目以降の色のカードは枚数分失点になる。また、パス1回につき、-2点。
  • ⑤何ラウンドかして最も点数の高い人が勝ち。

Sticheln_02



ゲームの総評


まいった。本当にまいった。トリックテイキングというジャンル名だけは、以前から聞いたことがあった。「マストフォロー」なんていうタームがかっこいいなあーととても頭の悪い感想しかもっていなかった。

トリックテイキングのことを「大富豪やUNOのようなゲームかしら」と最初は思っていた。手札からカードを1枚ずつ出していく流れは大富豪やUNOと同じだ。しかし、トリックテイキングの場合は、全員がカードを出した後、その中から一番強いカードを出した人がそのラウンドの勝利者となる。この各ラウンドのことを「トリック」と言う。そう、まさに「トリックをテイクしていく」ゲームだ。だからUNOのように手札を最初になくした人が勝ちではなく、何回か行われるトリックで最も効率的に勝利点を獲得した人が、最終的な勝利者となる。

なんとも淡白な印象。Wikipediaのトリックテイキングのページを見て、こうした概要を知っても、どう面白いのかあまりピンとこなかった。

しかし、今回初めてトリックテイキングをプレイして感動してしまった。

トリックテイキング凄い!というか世の中すべてトリックテイキングでいいんじゃないか、みたいに思い込むほど楽しかった。まあ、そんなわけで衝撃的なトリックテイキング初体験だったのだ。ひたすら楽しく、そして面白かった。

考えて、考えて、考えつくして出した答えが、出した後に全く間違っていることに気付く悲劇。何を出していいか分からず、最後には手札の一番右端にあるカードを思わず出してしまいそうになる切なさ。ジレンマがボードゲームの魅力だとしたら、それをひたすら味わせ続けるマゾヒスティックな展開。

このスティッヒルンという商品は、「スティッヒルン」と「ハットトリック」という2つのゲームが遊べるようになっている。両方ともむちゃくちゃ面白かった。後々調べてみるとトリックテイキングとしては変則的なゲームのようだ。

どちらも面白いが、理解しやすいのはハットトリックの方だろう。これをプレイして、トリックテイキングでは、各ラウンド(トリック)で1番を取ることが常に最良ではないことを知った。1番を取らないと点数にならないのだけど、1番にはデメリットもある。ゲームのシンプルで巧妙なルールにプルプルしてしまう。

一方、スティッヒルンの方はとにかく難しい。ハットトリックでは、前に出されたカードによって、出せるカードが限定される。UNOであれば、「数字か色のどちらかが前と同じでなければならない」という、いわゆるフォローのルールだ。

しかし、スティッヒルンにはそうした制約が一切ない。「マストフォロー」の要素が一切ない。そのため、どういう意図でそれを出したのか、何を考えているのか、あらゆる可能性が想像できて困ってしまう。

まさしく「自由の刑に処されている」状態。自分が何をしたいのか、完全に自由であるはずなのに何を求めてこのカードを出すのか分からないままに、カードを出すことになる。

この浮遊感がたまらない。地に足がついていない不安を覚える、その面白さ。

ちなみにこの「スティッヒルン」。絶版のようで、全然売っていない。今、これが欲したくて仕方がない。けれど、どこにも売っていない。欲しい。買いたい。売っていないと分かると余計に欲しい、そんな翻弄されやすい自分には最高に面白いゲームだった。トリックテイキング凄い。スティッヒルン凄い。

評価★★★☆とした理由……気分的には★4なのだが、なんせトリックテイキング初体験なのだ。もっともっと色々知ってから★4にしても遅くないだろう。自分に対する警戒を含めつつ、またゴテゴテしたバカそうなゲームが基本的には好きだと言う自らの性根に配慮して、この評価とした。

■補足1……今回ハットトリックにおいて、最終ラウンドの扱いを誤ってプレイしてしまったような気がする。最終ラウンドはカードをプレイすることなく、自分のカードとして点数計算する。なるほど。

■補足2……ハットトリックで一番強いカードが同じ数字の場合、次に最初にカードを出す人(リード)は誰からか。説明書には「2番目の数字のカードを出したプレイヤー」と書かれている。しかし4人プレイの場合だと「赤10、青10、赤8、青8」みたいな状況に十分なりうる。そのため、今回のプレイでは、2つ目のトリックを作った人(2色目を初めて出した人)とした。これなら確実に確定する。

果たしてどうするのが正しいのだろうか。そこで、上記の点を伝えた上で、メビウスゲームズさんに質問したところ、以下のように回答を頂いた。

「ルール上は、確かに確定できない場合がある。その際は1番になった二人の間で元リードに近いひとが次もリードを取る、としてはどうか」と。なるほど、それでもいいかもしれない。あまり頻繁にあるケースではないだろう。しかしトリックテイキングにおいて「次のスタートプレイヤーが誰か」はとても大事な部分だ。念のため、メンバー内でプレイする前に確認しておいた方がいいかもしれない。

2013年5月14日 (火)

【ボードゲームレビュー】クォーリアーズ ★★☆☆

Quarriors_01

評価:★★☆☆[2/4](3人プレイでの評価です)

プレイ人数:2~4人

プレイ時間:40分ぐらい


ダイスの魅力に負けてない面白さがあるのだから、それで良いのだと思う。

簡単なゲームの流れ

  • ①各プレイヤーは最初12個のダイスが入った袋を受け取る。
  • ②手番では、袋から6個のダイスを取り出して振り、出目に応じた魔力源ポイントを獲得し、そのポイントを使ってモンスターや呪文のダイスを場(サプライ)から購入する。
  • ③モンスターは、魔力源ポイントを使って召喚する。召喚されたモンスターは自分以外のプレイヤーを攻撃する。
  • ④自分の手番が再度回ってくるまで召喚したモンスターが他プレイヤーの攻撃から生き延びていたら、勝利点を獲得できる。
  • ⑤規定数以上の勝利点を獲得した人が勝ち。

Quarriors_02



ゲームの総評


ドミニオンの仕組みを用いて、カードの代わりにダイスを使ったデッキ構築型ゲームだ。

……これだけでほぼ全てを語ったように気になってしまうところが、このゲームのかわいそうなところだ。

サプライにあるモンスターを購入していく流れや、自分の持つダイスが増えたり圧縮できたりするところは確かにドミニオン。しかしドミニオンにおけるお金や勝利点の部分については結構異なる。

僕は今回クォーリアーズを初プレイしてみて、「かなりドミニオンと違うなあ」という印象を持った。しかし、その「違うところ」というのが、特にゲームとしてドミニオンよりも洗練されているかと言ったら、そうでもない。なので、このゲームは大概、「ダイスを振るのって楽しいよね!」みたいな話で終わってしまうのではないか。僕もダイスを振るのは大好きだ。けど、語られ方としてそれだけ、というのは少し気の毒に思ってしまう。

もちろん、正直言うと、こういう語られ方をするのもしょうがないと思う。「ドミニオンをやればいいじゃない」という指摘に、どれだけ説得力ある反論できるだろう。難しいと思う。

それだから一層、なぜこのクォーリアーズはこれほどに愛されるのか、ということにも興味が出てくる。

個人的には、このカラフルで、所有欲を満たすダイスの妙な存在感こそがクォーリアーズの魅力なのだと思う。整然と並んだ大量のダイスを見ていると、それだけで恍惚とした気分になる。しかも、これらダイスを使ってゲームとしても遊べてしまう、なんとも贅沢な話。ただそこにいるだけで美しいのに、遊べてしまうなんて!

誤解してほしくないのだが、クォーリアーズはゲームとしてとても良く出来ている。これは本当にそうだ。ダイスとしての魅力はさることながら、これだけ遊べるゲームであることにも意味がある。これが本当にツマラないゲームだったら、ダイス自体の魅力を損なうことにもなるだろう。だからドミニオンという優れた仕組みを単にパクッたと見るよりも、適切に採用したとも言える。ダイスの魅力を引き立たせるために、ドミニオンを使ってやったのだ。

ミニチュアやフィギュアにも魂が宿るように、おそらくダイスにも魂が宿る。ダイスから溢れるファンタジーの世界。これを想像する楽しさは、とてもプリミティブで、そして極めて素朴なホビー的快楽だと思う。


評価★★☆☆とした理由……信じてもらえないかもしれないが、今回初めてプレイしてみて、クォーリアーズのことが好きになった。買おうとは思わないし、そこまで面白いゲームだとも思わないが、その堂々たるクォーリアーズの姿勢がとても愛おしくなった。

2013年5月11日 (土)

【ボードゲームレビュー】イノベーション ★★☆☆

Innovation_01

評価:★★☆☆[2/4](4人プレイでの評価です)

プレイ人数:2~4人

プレイ時間:50分ぐらい


特殊効果のインフレを味わう。

簡単なゲームの流れ

  • ①場には、10個の山札が作られる。各山札には「1.先史時代」というように、1つの時代が割り振られている。数字が高くなるほど、未来の時代になる。(例:「5.大航海時代」、「9.宇宙時代」など)
  • ②各プレイヤーは手番において、山札からカードを引いたり、手札のカードを出したり、カードの効果を発動したりして、影響値というポイントを獲得していく。
  • ③各時代の数字の5倍以上の影響値を溜めるとその時代を制覇できる。
  • ④後の時代になるほどカードの効果が派手で強力になる。
  • ⑤規定数以上の時代を制覇した人が勝ち。

Innovation_02



ゲームの総評


一昔前のテレビゲームのRPGの説明書はえらく分厚かった。何十ページあるんだ?みたいな説明書もあった。今は読まなくなったが、僕はテレビゲームの説明書を読むことが結構好きだった。

説明書の後ろの方には、魔法とかアイテムの一覧が載っている事が多かったように思う。「え、こんな魔法があるのか」とか「このアイテムはそういう効果か」と、説明書を読んで、この先に広がる世界にワクワクした。

イノベーションはその頃の楽しさを思い出す。ゲームをしていない時でさえ、様々なカードの特殊効果を読んで、それが実際にプレイされた状況のイメージを膨らませる。

出てくるカードが全て特殊効果のオンパレードだ。最初の方は地味な効果のカードしか出てこない。しかし、時代が進むたびに、その効果は凄まじく増大していく。

他プレイヤーが持ついかにも素敵そうな能力。あー、あんな強いカードがあったら、こっちは勝てないんじゃないか?……でも、今回自分が引いてきた新時代のカード。これは凄い。この特殊効果はめちゃくちゃ強力だ、逆転出来ちゃうかも?みたいな一喜一憂が、初プレイでは無性に楽しかった。

このゲームはプレイヤー同士の直接的な殴り合いになる。この殴り合いの感覚って、コンピュータ上で対戦ゲームを楽しむノリに似ている。お互いが分かりあって、ワイワイと対戦ができる環境だと、凄く楽しいだろう。ゲームバランスとしては力任せな印象があるのだけど、繰り返しプレイでこそ光るゲームだ。分かれば分かるほどにやりたくなる。

けれど、個人的な印象として、このゲーム全体には妙な乳臭さが漂っているように感じる。僕は、こうしたゲームが大好きなんだけど、ほんの少し「恥ずかしい」感じがある。

別にバカゲーだからってことじゃない。うまく表現できないのだが、ポケモンとかそういうのものに近い感じ。とは言っても、幼稚だとか、そういうことではなくて、「内輪で楽しむ感じ」があるからかもしれない。きっとシステムの話だけじゃない。

まあ、それはこのゲーム独特の魅力でもあるのかもしれないな、と思う。


評価★★☆☆とした理由……楽しい。でも気の合う仲間と、連続して何回もやりたい感じ。システムに隠れたルールを探究していく楽しさ。でも、どこか、クローズドな印象もある。

2013年5月 8日 (水)

【ボードゲームレビュー】P.I. ★★★☆

Pi_01

評価:★★★☆[3/4](5人プレイでの評価です)

プレイ人数:2~5人

プレイ時間:60分ぐらい


推理ゲームの美しいかたち。

簡単なゲームの流れ

  • ①ボード上に14のロケーションがあり、各所に"容疑者"と"犯罪"がランダムに配置される。
  • ②プレイヤーは自分の右隣の人が持っている容疑者、ロケーション、犯罪カードが何かを推理するのが目的。
  • ③各プレイヤーは自分の手番で捜査対象を選び捜査を行う。
  • ④右隣の人は選ばれた捜査対象について、自分の持つカードと適合しているか、ロケーションが近いか、という点について情報提供する。
  • ⑤容疑者、犯罪、ロケーションの3つ全てが分かったら告発する。告発する速さによって勝利点が異なる。3つの事件が終わった後、最も点数の高い人が勝ち。

Pi_02


ゲームの総評


推理物ゲームというのが元々僕は大好きだ。昔、ミステリーが大好きだったこともあり、下手なくせに推理モノというだけで、そのゲームの評価が甘めになってしまう。

だから、後々考えるとこのゲームについても、それほどじゃあないんじゃないか、という思いもよぎるのだが……。う~ん、でもやっぱりこのゲーム、好きだ。

このゲームは、全員が同じ事件について捜査するわけではない。自分の右隣の人が握っている事件(犯人や犯罪)をひたすら追い求める。だから、早く真相に近付くことは重要だが、どれだけ真相を掴むのが遅くなってもゲームは終わらない。全員が自分の事件を解決するまでゲームは続く。その事件を解決するのは自分だけだからだ。

みんなが1つの事件を追うという推理ゲームの前提。この前提を僕はとても当たり前のことと思っていた。

最初にこのゲームのシステムを聞いて、事件の持つ重みが小さくなってしまうのではないかと危惧した。そして、どのようなインタラクションが生まれるのかイメージできず、非常にソロプレイ感が強くなるのではないかと思った。

しかし、各々の私立探偵の捜査が、1つの街の中で絶妙なインタラクションを生み出す。ゲームを進めるごとに、自分にとっての手がかりが他プレイヤーの様々な行動の中に散らばっていることに気付く。ゲームプレイにおける話だけではない。このシステムにより、けちな私立探偵たちが、各々の小さな事件を追っているという、とてもベタでハードボイルドな世界を作り出す。そこは、シルエットの濃い、湯気の立ち上るような暗い街を想起させ、システムやアートワークがテーマを綺麗に裏打ちする。当初思っていた以上に、システムとテーマがカッコよく融合していて、ハードボイルドの世界を匂い立つ程に感じさせてくれる。凄い。

それにしても、推理ゲームでいつも思い知らされるのは、名探偵のような劇的な推理は必要ないという事実だ。そうした論理を華麗に跳躍するようなひらめきよりも、推理ゲームでは、1つ1つ足場を固めていくような堅実さが重要になる。だから推理ゲームをする自分は、「名探偵ではないよなー」と、いつも思っていた。

しかし、こうした推理ゲームで必要な堅実な捜査が、このゲームのテーマにはとてもマッチしている。足で事件を解決する地味な私立探偵。それは超人的な知性を持つ名探偵ではなく、あくまで私立探偵(Private Investigators)でしかない。ハードボイルドの世界よろしく、きっと探偵としての物語は、その犯人を見つけ出した後に生まれるのだろう。そうした世界観へ気持ちよく想像を広げさせてくれる本作は、やっぱり名作だと思う。


評価★★★☆とした理由……推理系のゲームは色々あるのだろうけれど、アートワークとシステムに強く惹かれてしまった。マーチン・ワレスって凄い人なんだな、という印象も強く残った。

2013年5月 1日 (水)

【日記】ゲームマーケット(GM)2013春-目的を持てない人のためのGMの歩き方-

ゲームマーケット2013春。何か新鮮なものに出会えるのではないか、そんな期待に胸が膨らむ。

しかし、ふと冷静になると「自分は何のためにゲームマーケットに行くのだろう」と疑問に思う。実はあまり明確な目的はない。ゲームマーケットへの参加も、今回がたったの2回目であり、正直言うと、何が注目すべきゲームなのかもあまり分かっていない。カタログを事前に購入した割には、ほとんど目を通すこともなく、このゲームが絶対に欲しいというわけでも、このゲームは必ず試遊してみるぞ、なんて思うわけでもない。

気づくと、目的らしい目的を一つも持たないままに僕は有明の東京ビッグサイトに向かっている。

2013gm_sp_bigsight_01


しかし、断言しよう。それでもゲームマーケットは楽しい。行ける機会があり、ボードゲームが好きなら行くべきだ。この記事では、そんな明確な目的を持てない僕がゲームマーケットをどう楽しんだのか、そのためのポイントを紹介しつつ、ゲームマーケットレポートを書いてみたい。


■ポイント1 予算を決めよう

一応、ゲームマーケットはその名が示すように販売会なわけだ。ここにはみんな何かを買おうと思ってやってくる。重要なのは、事前に「○○買うぞ!」とそんなに気張らなくていい、ということだ。そんなのは疲れる。事前に準備や調査がかなり必要になってしまう。もちろんそれをするのに越したことはないけれど、どうしてもしなくていけないわけではない。しかし、予算だけは決めておこう。これを決めておくだけでかなりゲームマーケットを回るのが楽になるはずだ。

ちなみに僕は5000円という予算を決めていた。少ない?確かに少ない。ツイッターなどでボードゲーム好きの会話やツイートを見ていると凄まじい数の戦利品報告があったりする。なんか気が引ける。でも、別にいいのだ、予算が少なくても。とにかく決めておくことが重要だ。ちなみに僕の場合は予算を二段階定額のように決めている。上限が2つあるのだ。1つが5000円。もう一つがその1.5倍である7500円。5000円は超えてもいいけど、7500円は必ず守る。

まあ、端から5000円で収める気はないんじゃないの?と妻からはツッコまれそうだけど、心に少しだけ余裕を持っておくのも大切だと思う。(ちなみに財布には3万円入れておいたことは妻には言ってない。言わなくてもいいこともあるのだ。)


■ポイント2 何の行列か聞こう

2013gm_sp_gyoretsu_01
↑サムネイルだと分かりづらいが、ビッグサイト前の橋を埋める長い行列。

国際展示場正門駅に降りたら、凄まじい行列が目に入る。あれがGMの行列なら、帰ろうかと思うほどに並んでいる。聞いてみると、どうやら「COMIC1」という同日開催の別イベントの行列のようで、ホッとする。

2013gm_sp_gyoretsu_02


しかし、実際にゲームマーケット会場に入ってすぐ、これまた長い行列が目に飛び込んできた。まさかと思い聞いてみると「カナイ製作所さんの行列です」とのこと。僕はカナイさんが作られたラブレターというゲームが大好きなのだ。ずっと欲しいと思っていた。何より500円だ。けれど、本当にこの列に並ぶの?と一瞬躊躇した。しかし、思い切って並んだ。僕の大好きなラブレターを手に入れる機会をここで取り逃がすのは惜しかったからだ。しかし、並んでみてよかった。というかその前に何の行列か思い切って聞いてよかった。無事、ラブレターを入手することができた。

ゲームマーケットは一般の商業ベースのお店も並んでいるが、スペースを多く取っているのは数多の同人サークルだ。長い行列ができているというだけでも、不案内な僕には大きな指標になる。行列ができていたら、迷わず聞いみて、どんなゲームを扱っているか知るのがいいだろう。少しでも興味を持てたら、あとは並ぶだけだ。

しかし、今回のカナイ製作所さんの並びは異常だった。開始1時間程度で解消されたように思うけれど、カナイ製作所の行列で、隣にあったJapon Brandさんのイベントスペースが機能していなかったのが印象的だった。

2013gm_sp_gyoretsu_03



■ポイント3 過度な期待を捨てよう

高円寺のすごろくやさんをはじめ、店舗としてのボードゲーム専門店に行ったとき、無数のボードゲームに囲まれる幸せを感じた人は多いと思う。おいおい、これ全部ボードゲームかよ、まじかよと興奮して、目移りする恍惚感に酔った人もいるだろう。

しかし、ゲームマーケットでは無数のインディーズゲームがその場所を多く占めている。普段目にするような「ちゃんとした」商品でないことも多い。見た目も明らかだ。当然ながら素人くさいものも多い。もちろん中には普通に商品として売られるゲームより遥かに面白いゲームがあることもある。しかし、パッと見、大半の同人ゲームは普通の商品には勝てない。

だからと言って、これら同人ゲームを、偉そうに遠くから眺めるだけではもったいない。そして、全てのサークルを公平に見てまわる必要もない。それこそ足の向くまま、気の向くまま。たまたま足を止めたところに気になったものがあればいい。過度な期待に勝手に失望するのではなく、また全部を見ようとする必要もなく、ふらふらと藻のように漂うのが良いと思う。

そんなことをしているとこういう珍妙なサークルに出会うこともある。


この「フランケンデリバリー」というカードゲーム。売り子さんを含め、売り場スペースから漂う圧倒的な「やる気のなさ」臭。とにかくもうやる気が感じられない。チラシも長方形に切られておらずデコボコしている。イラストも完全に気が抜けている。素敵。やる気のなさが素敵すぎる。買うのを忘れて帰ってきてしまい、今、とても後悔している。


■ポイント4 三つ買おう

予算を決めたはいいが、なかなか欲しいものが見つからない。目的を持たない僕のような人間にはそういうこともあるかと思う。しかし、せっかく来たのだから、3つ買おう。なんでもいいから3つだ。3つだと、家に帰った後の満足度が大きく違う気がする。2つ買うより3つ買うことで、1.5倍以上の大きな満足感が得られる。

同人ゲームで欲しいものがない。ならば、いわゆる商業店舗ブースから買えばいい。テンデイズゲームズさん、ニューゲームズオーダーさん、すごろくやさん。素晴らしいお店がいくつも軒を並べている。こういうお店で買えばいいのだ。

『でも、駿河屋やAmazonで買えばもっと安く買えるかも?わざわざゲームマーケットで買わなくてもいいのでは?その方がお得じゃない?その方が賢いのではないか?』

ついつい少ない小遣いでやりくりしている大人は、そういうチンケなことを考えてしまう。その気持ちは痛いほど分かる。しかし考えてみてほしい。本当にあなたはそれをAmazonで買うだろうか。断言するけれど、絶対に買わない。いくら安いとは言え、家に帰ってAmazonで同じものを買うだろうか?昨日は買わなかったのに?家に帰った後の冷静な頭でそれを買う理由がない。

目の前に、とても素晴らしいゲームがあるなら、今そこで買うべきなのだ。
その馬鹿でかいパッケージがその魅力を如何なく発揮しているなら、その今こそが買い時だ。そうでないと、そのゲームは2度と手に入らない。買う、買わないが自分自身の意思だと思っているなら、それは傲慢でしかない。ゲームマーケットの熱に背中を押されるようにして買ってしまうことは恥ではない。それはとても自然なことなのだ。決断はいつだって効率や公平さを欠いている(キリッ(と僕は自らに言い聞かせて買った)。

ちなみに、それでもなかなか買えない時はあるかもしれない。そういう時は書籍を買ってみてはどうだろうか。同人サークルも本を売っているところもある。また、ゲームマーケットにはブックストアの書泉さんが出展している。1つのゲームを手に入れなくても、数十のゲームが紹介されている本をカタログのようにして買うのも、また一興だろうと思う。


■ポイント5 長居しない

だいたい見て回ったなあーと思ったら帰ろう。無理して長居する必要はない。せっかく来たんだから夜までココにいようなどと頑張らなくてもいい。たとえ帰宅の途についても、ゲームマーケットはまだ終わっていない。帰宅しても終わらない。買ってきたゲームや本をパラパラと見るという、大切な最後のイベントが待っている。

会場で十分に楽しみ、疲れ果てて帰ってきて泥のように眠るのもいいだろう。しかし、ゲームマーケットの勢いをそのままに、戦利品を眺める時間と心の余裕を持っておくのも、大人の楽しみ方の1つだろう。そこまでゆったりと楽しむことができたなら、きっと次のゲームマーケットもまた行こうと思えるのではないだろうか。


■最後に

今回僕がゲームマーケットで購入したのは以下のものだ。

  • ラブレター

2013gm_sp_loveletter_01
↑ずっと欲しかった一品。今回手に入って満足。


  • ロストレガシー

2013gm_sp_lostlegacy_01
↑抑制の効いたテーマ。ワクワクする想像力を少しだけ膨らませる楽しさに満ちている。


  • 酔いどれ猫のブルース

2013gm_sp_katzenjammerblues_01
↑面白い。とても素敵な競りゲーム。ブルースに関する知識がなくて、パロディを理解できてないのは、もったいないのかも。でもクニツィア先生、さすがだなあと思った。


  • ウントチュース

2013gm_sp_undtschuss_01
↑まだ未プレイ。でもきっと面白いに違いないと、説明書を読んで確信している。


  • 紙製ダイスタワー(A4)

2013gm_sp_dicetower_01
↑紙製のダイスタワー。なかなか出来がいい。「ねことねずみの大レース」のサイコロだと途中で一瞬つまるけど、ツンツンするとちゃんと落ちてくる。娘とプレイする時に今度使おう。


  • テーブルゲームデザインの本 2号
↑惨劇RoopeRの記事が大変面白かった。真摯な記事がいつも通り素敵。


締めて、6800円也。僕は家で戦利品を眺めてニマニマしていた。いいもの選んだなあー、などとひとりごちては、その余韻を反芻する。こうして、目的を持たない僕にも十分に楽しめたゲームマーケットになった。

« 2013年4月 | トップページ | 2013年6月 »