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2014年6月

2014年6月21日 (土)

【ボードゲームレビュー】ゼロの恐怖 ★★☆☆

Null_und_nichtig_01

評価:★★☆☆[2/4](5人プレイの評価です)

プレイ人数:3~5人

プレイ時間:30分

ゼロにぬりかえる。

簡単なゲームの流れ

  • ①手札は13枚。最初、自分の前に3枚のカードを並べて置く。同じ色のカードは重ねる
  • ②トリックテイキングの要領で、各自、手札から順繰りに一枚のカードを出していく。
  • ③一巡して全員がカードを1枚出したところで、最も数字の高い人がカードを総取りする。
  • ④取ったカードは自分の前に並べて置くが、同じ色は必ず重ねて置く。これを手札がなくなるまで繰り返す。
  • ⑤自分の前に並べて置いたカードの各色の一番上の数字が得点になる。その得点の総計が最終得点。最も得点の高い人が勝ち。

Null_und_nichtig_02


ゲームの総評


トリックテイキングというジャンルには面白い作品が多すぎる。


本作『ゼロの恐怖』も面白い。面白い作品に出会うというのは、トリテ界における日常のようだ。今後、どんなトリテに出会っても、トリテと聞いた瞬間に「はい、面白い」と言ってしまいそうなほど、トリテは名作に出会う確率が高い気がする。


本作は面白いのも確かだが、『ゼロの恐怖』という名前もいい。もうこれは「ゼロのカードがいやらしいんだろう」と誰もが予想する。そして実際にそのとおりなのだ。原題は"Null & Nichtig"。Nichtigはドイツ語で"ゼロ"や"空っぽ"を意味するので、敢えて訳すなら「ゼロ&零」のようなタイトルだ。タイトルからしてもよくよく『ゼロ押し』のゲームである。


トリックテイキングを知っている人にはおなじみだが、トリテでは、あえて弱いカードを出して、そのターン(トリック)での勝負を放棄する、ということがある。しかし、ゼロの恐怖ではそうしようとすると、みんながわんさと弱い数字を出しまくって、結局最初に弱い数字を出して逃げようとした人がカードを総取りするハメになる。簡単に逃げることを許さない展開が本作の楽しいところであり、辛いところだ。大量の低得点カードを取ってしまうことで、つい先程まであった大量の得点を一気に失う。こうして他プレイヤーを落としめていくことが面白く、そして、この一気に最下位に転落していく様がすばらしい。


みんなから敵認定されないように、自分はあまり強くないことをアピールする。とにかく、ヘイトを集めることは命取りになる。そんな風に「わたし弱いんですアピール」をする人もいれば、一方で、地道に得点を重ね、獲得した得点をできる限り失わないように、神経を研ぎ澄ませる人もいる。


本作の欠点を一つ挙げるとするなら、トリックテイキングにありがちだが、勝負自体に夢中になりつつも、手探りで進まざるを得ないことで疲弊してしまう点にあるんじゃないかと思う。逆に、テーマ性の強い重ゲーの方が、プレイしている時の気持ちとしては、かえって楽な部分もある。ゲームを重い・軽いで表現することはよくあるが、その軽重にも色々な側面があるものだと改めて思った。トリックテイキングが苦手、という人がいるのは少し分かる。そういう人にとって、トリックテイキングは「重い」のかもしれない。



評価★★☆☆とした理由……順位が乱高下する展開はとても面白い。ただ、疲れる。どうすると(戦略的に)良いのかが分かりにくい部分があるので、そういう意味で、難しいゲームでもある。

2014年6月14日 (土)

【ボードゲームレビュー】シェフィ ★★★☆

Shephy_01

評価:★★★☆[3/4](1人プレイの評価です)

プレイ人数:1人

プレイ時間:20分


羊爆発。


簡単なゲームの流れ

  • ①手札は5枚。1枚ずつカードを出す。出したカードに書かれたアクションを実行する。
  • ②アクションには、自分のひつじの頭数を増やす良いアクションだけでなく、減らすような悪い効果のアクションもある。
  • ③手札を使うたびに山札から5枚になるよう手札を補充する。
  • ④山札の全てのカード(22枚)を使い切るたびに、最初は1匹しかいない『敵ひつじ』が10倍に増える。捨て札をシャッフルして改めて山札を作る。これを3回繰り返す。
  • ⑤敵ひつじが1000匹になる(山札を3回作る)前に、自分のひつじを1000匹に増やせれば勝ち。

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ゲームの総評

一人用カードゲーム。カードのイラストがとても魅力的でかわいらしい。一本一本の線が、ペンで描かれた時の躍動感をまだ持っているような雰囲気がある。シェフィが誰にでもオススメできるというのは、この温かみのあるイラストに拠るところが大きい。


では、ゲームとしての面白さはどうなのか。いや、これがとても面白い。手札は5枚。この5枚をどういう順番で出すか。言ってみれば、これだけがシェフィというゲームの「考える部分」である。


ポイントは「1枚手札を出すごとに1枚補充する」というところ。このシステムのおかげで一枚のカードを出したすぐあとに、違った状況が目の前に展開する。ずっと遠くまで見通して長期的な戦略を立てるというよりも、毎回変化するシチュエーションに合わせたその場その場の最適解を考える。だからこそ、かえって無理なく考えることができる。自分のアクションが長期的に見て正しいかどうか悩むことなく、とりあえず行動してみる。最初、こうした滑り出しで軽やかにゲームは展開していく。


しかし、すぐさま、クリア目標である「自分のひつじを1000匹まで増やす」なんて絶対に無理だ!と思うことだろう。あまりに高い壁が自分の前に立ちはだかっているように感じる。しかしゲームが終盤に進むうちに、段々とその目標も達成できそうに思えてくる。うまくいかず、たとえ負けてしまったとしても、最初の時と違って、目標の高さは全然違うものに見えているはずだ。悔しいので、もう一度やる。前回やってしまった失敗にすぐに気がつく。気づけるようなレベルにちゃんと成長している。おそらく、3、4回もやれば、多くの人は当初のクリア目標を達成できるだろう。


クリアしてしまえばこのゲームは終わりなのだろうか。まあもちろんそうとも言える。高得点を狙う遊びもいいが、一度クリアしてしまったら、ある意味終わりかもしれない。しかし僕は、このゲームを、しばらくしたら、また再プレイしてみたいと思う。クリアできることが分かっていても、再プレイしたいと思わせる魅力。シェフィにはそういう力が備わっている。それこそまさに、このゲームの実力なのではないかと思う。



評価★★★☆とした理由……一人用アナログゲームが宿命的に抱える課題は、それを所有していることの価値は何なのか、というところにあると思っている。その課題をシェフィは軽やかに越えている。パッケージを見て欲しいと思う人は、買って後悔しない。傑作。

2014年6月 7日 (土)

【ボードゲームレビュー】ククカード ★★★☆

Cucco_01

評価:★★★☆[3/4](8人プレイの評価です)

プレイ人数:5~15人

プレイ時間:30分


「そこでは何かが光っていた。」


簡単なゲームの流れ

  • ①各プレイヤーにカードが一枚配られる。
  • ②親の右隣から順番に、自分のカードを右隣の人と交換するか選択する。
  • ③手番は順番に右隣に移っていく。最後の人は、自分のカードを山札の一番上のカードと交換するか選択する。
  • ④最後、カードを全員でオープンし、最も弱いカードの人が手持ちのコインを支払う。
  • ⑤何ラウンドか繰り返し、最もコインを集めた人が勝利。

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ゲームの総評


カンビオというルールのゲームを遊んだ。クク(カード)を使ったゲームは色々あるが、日本ではおそらくこのカンビオが最もメジャーだろう。カンビオは「たった1枚の手札を交換するか選択する」という、とてつもなく単純なゲームだ。カンビオ(cambio)とはイタリア語で『交換』を意味する。


実際にプレイしてみると、そのルールの美しさに言葉を失う。本当にたった一枚。そのたった一枚をどうするか、そこにちゃんとジレンマがある。見方によっては、手にするカードの枚数はラブレターよりも少ないと言える。これでもちゃんと面白いゲームが成立するのだから驚く。伝統的なゲームの持つ凄みというのはこういうところにある。何回かラウンドをまわすうちに、ルールを理解し始めたメンバーの表情が変わっていく。その様子に、久しぶりに鳥肌が立つ思いがした。


このゲームを日本で紹介、普及させた第一人者である草場純氏の次の文章がクク(カンビオ)の魅力をとても端的に伝えている。次の一文が特に美しい。


ルールを説明して、1ディール目はよく分からず、ルールに従ってプレイした。2ディール目に、「チェンジの後のノーチェンジ」が起こり、ゲーム慣れしている五人のプレーヤーは、瞬時に何が起こったか悟った。


---「私はいかにしてククカードを作ったか。」-ゲーム研究家・草場純さんの研究を収集するサイト

いやぁ、このシーン。読んだだけでも、もう自分がその場にいるかのような錯覚を覚える。「チェンジの後のノーチェンジ」。何かが起こるのは、まさにこの瞬間である。実際にプレイしたことのある人には分かっていただけるだろう。しかし、この「やらないと分からない面白さ」とは一体なんなんだろうか。「あー!そういうことか」というワンダーな体験。こういう体験は「ゲームをプレイした者の特権」だろう。見ていては得られない。「頭で分かること」では分からない。


草場氏の記事に書かれているように、ククは誰か個人の意思によってデザインされたゲームではないのだろう。同じシンプルなゲームであっても、「ハゲタカのえじき」や「ニムト」のような美しさとは異なる。草場氏が語るようにこのゲームを作ったのはおそらくフォークロア(民間伝承、風習)だろう。時代の変遷や淘汰の中で磨かれた一筋縄ではいかない美しさがある。長い時間を生き延びてきた泥臭さ、そして強靭さがある。


最後に、また草場氏の記事から言葉を引用して、この記事を閉じよう。これ以上の言葉を綴る自信がない。読んでない人は是非、引用先の記事を読んでいただければと思う。


「これ、面白いじゃないか!」


 私は私の浅はかさを恥じるとともに、ゲームという宇宙の、秘密を一つ垣間見た気がした。


---「私はいかにしてククカードを作ったか。」-ゲーム研究家・草場純さんの研究を収集するサイト

評価★★★☆とした理由……素晴らしいゲーム。一度はみんな体験してみるべきだろう。あと、邪道と言われるかもしれないが、「賭けて遊ぶ」が正しい遊び方のように強く感じた。なかなかオープンなボードゲーム会ではできないことだろうが、正直なところそう思っている。そんなわけで(正しく遊べてないと思うので)、二つ星(★★)とすべきじゃないかと悩んだが、やはりゲーム自体の魅力は一級品だと思うので、この評価とした。

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