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2014年8月10日 (日)

【ボードゲームレビュー】エセ芸術家ニューヨークへ行く ★★☆☆

Ese_artist_01

評価:★★☆☆[2/4](5人プレイの評価です)

プレイ人数:5~10人

プレイ時間:30分


何かに似ている。


簡単なゲームの流れ


  • ①各プレイヤーは1本のペンを持つ。色はプレイヤーごとに異なる。
  • ②親はお題を決めて、そのお題を子プレイヤーに伝える。一人の子プレイヤーだけにはお題を伝えない。
  • ③子プレイヤーは一筆だけ、お題に沿って絵を描く。お題を知らない子プレイヤーはお題を知らないことをバレないように勘で描く。
  • ④1人2回線を描いたら、絵は完成。子プレイヤーは誰がお題を知らない子プレイヤーかを当てる。当てられなければ、お題を知らない子プレイヤー(=エセ芸術家)の勝ち。
  • ⑤たとえ当てられても、そのお題が何だったのか正しく答えられたらエセ芸術家の勝ちになる。

Ese_artist_02



ゲームの総評

アナログゲームには、お絵かきゲームと言えるゲームがいくつかある。こうしたお絵かきゲームでは大抵、絵が下手な人も参加できるように、そして、上手い人がただ有利にならないように工夫されている。


しかし、『エセ芸術家』は、お絵かきゲームの中でも少し変わった仕組みとなっている。お絵かきと言っても、各プレイヤーが描けるのは線一本だけ。それをたった2回描くだけで1ゲーム終わってしまう。そのため、個人のお絵かきスキルがほとんど問題にならない。他のお絵かきゲームと同じように絵が下手な人でも気兼ねなく参加できるのはもちろんだが、絵の上手い人がその力を発揮することもほぼ無い。潔いほどに絵の技量が関係しない。この点が、少し変わっている。


また、一筆ずつしか書けないというのは、一文字ずつみんなで俳句を詠んでいく『詠み人しらず』というゲームを思わせる。制約の中でみんなが1つの作品を作るが、最後にはカオスな結果が現れるという展開も似ていると言えるだろう。


タイトルにあるとおり、このゲームではプレイヤーの中に、たった一人、絵のお題を知らないエセ芸術家がいる。その「彼」はさも分かった風に線を描いているが、実際は「お題」を知らない。そのエセ芸術家を探るのがこのゲームの主な目的だ。


このゲームでは、各自が持つペンの色が違うので、誰がそれを描いたのか、後から確認できる。そして、みんなはエセ芸術家を探るため、線の一本一本の意味を考えながら鑑賞する。何より面白いのは、描かれた最終的な絵からは、作者や意味というものが失われている所だ。その絵は誰かの絵ではなく、また何かの対象物をはっきりと示そうともしていない(なぜならエセ芸術家に「何の絵」かバレてしまうと負けてしまうから)。しかし、それでもなお、完成した絵は「1つの何か」である。ゲームのテーマ的には、「お題を知らない人間=エセ芸術家」なのだが、その作品を作り上げた誰もがエセ芸術家であるように思えるし、その完成した絵は、まさにエセ芸術家の作品のように思える。


意味を伝えようと必死になっている部品(線)が集まっているにもかかわらず、その部品で構成された全体(絵)はデタラメで決して意味を伝えようとしない。最初にこのゲームをプレイしたとき、そのことをとても不思議で面白く感じた。一体これは何なんだろうか。


少し考えてみて思ったのは、「表現することには常に複数の意味がある」ということだ。表現したその「内容」に重点があるのか、それとも表現しているという「行為」に重点があるのか。「表現することの意味」の複層性を利用したゲームが『エセ芸術家』というゲームであるように思える。


日常を振り返ると、僕たちの周りにはこれに類することがいっぱいある。挨拶や儀礼的なコミュニケーションはもちろんだが、ツイッターやFacebookなどSNSの投稿もコレに似ているように思えてくる。その投稿で伝えたいことが、本当に「内容」なのか、それともそれを書いているという「行為」なのか。それは結構、書いている本人にさえ曖昧だったりする。


僕たちが料理の写真をアップして「おいしー」とSNSに書き込む時、それは単に「料理がおいしかった」という「内容」を伝えたいだけだろうか。むしろ「そうしている行為」の方が重要な場合がある。「内容としての何か」を伝えたいのではなく、「行為としての何か」を伝えたい。僕たちはネット上でも、知らず知らずのうちに、「内容」の意味を置き去りにしたまま、「行為」の意味を伝えようとしている。自分のTLやウォールは、まさに一本一本の異なる意図の線で構成された『エセ芸術家』の作品のようだ。


そんな風に考えると、『エセ芸術家』というゲームは、コミュニケーションの複雑さを一種戯画化したようなゲームであると言えるのかもしれない。例えば僕はこのゲームを遊んでいて、途中から、お題を知らないエセ芸術家の方がよっぽど純粋な心を持っているように思えてきてしまった。自分がエセではないことを示すために必死なその態度は、むしろピュアで愛嬌さえ感じさせる。一方、「お題を知っている人間」の方が、ずっと「分かっていることを鼻にかけた嫌味な奴」のようにも思えてくる。エセ芸術家という言葉の意味が倒錯する面白さがそこにはある。


『エセ芸術家』は、「伝わる」ことと「伝える」ことの不思議さを教えてくれるゲームだ。



評価★★☆☆とした理由……分かるようで分からない不思議な絵が完成するのがなんとも楽しい。最も「絵が下手な人でも参加しやすいお絵かきゲーム」が本作かもしれない。人数がそれなりに必要なこと、「お題を知らない人」の決定方法が完全に親に一任されていること、親はゲームに直接参加できないこと、という3点が個人的にはネックだと感じた。

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